自ら撮影した写真を存在しない名盤のジャケットに見立ててレビューを書くプロジェクト。
louver lover / Honestly(2014)
オランダの3ピースバンド、louver loverの2ndアルバム。The xxからの影響を感じさせるような、ロックとエレクトロニックが融合したジャンルに縛られないオルタナティブなサウンドを奏でる。前作に比べエレクトロニック色が濃くなり、ミニマルに洗練されたアンビエントのような実験的な曲も盛り込まれている。louver loverという名前の通り、ルーバーなど建築のコンポジションからインスピレーションを受けて作られた曲もあるという。メンバーのうち2人はレム・コールハースの設計事務所OMA出身という異色の経歴を持つ。本作では、静謐な雰囲気がアルバムの作風に合っているということで、東京・六本木にある安藤忠雄の21_21 DESIGN SIGHTの内観写真をカバーに起用している。
樱花 / beautiful people(1994)
香港を拠点に活動するSSW、樱花の2ndアルバム。現在のDIY精神を元にしたアジアンインディーシーンの先駆けとなった作品といえる本作は、90年代の不穏な空気感に寄りそうメランコリックさとそれに相反するポップさを巧みに融合させたサウンドが当時の若者の心を掴み、カルト的な人気を誇った。ジャケットになったこの写真は、友人と夜の渋谷の街を散歩していたときに、偶然見つけた建物の前で撮ったもの。連続体からなるこのファサードは、ホモジーニアスな香港の都市を表しているのと同時に、奇妙な構造の中にポップな水玉模様が見えるような彼女の音楽性を表しているのかもしれない。
insomniac dance / hey, sheep(2011)
スウェーデンのドリームポップバンドinsomniac danceの4thアルバム。1999年のデビュー以来、すべてのアルバムのジャケットにinsomniaのモチーフとして羊の写真を使用している。本作の羊写真は、ベースのOrver Linneの友人が東京の駅のホームで撮ったもの。羊がフェンスを貫通しているかのような非現実感がとてもシュールで、目を引くジャケットとなっている。Airなどからの影響を感じさせるような、夢の中を彷徨う雰囲気を纏いつつもダンサンブルな楽曲のイメージによく合っている。
Melvina Winslet / Circle(2020)
今年7月にリリースされたイギリスを中心に活動するビートメイカー、Melvina Winsletのニューアルバム。80年代後半のアシッドハウスを現代風にアップデートした音作りが早耳の音楽ファンの間で話題となっている。このアートワークはMelvinaと親交の深いグラフィックアーティストReynold Balliolによるもの。
Feu doux / distance(1991)
フランスのエレクトロデュオFeu douxのデビューアルバム。2人は同じ大学の建築学科出身のため、互いのお気に入りの建築写真の中から、東京・青山にある槇文彦氏のSPIRALの内観写真をカバーに選んだ。単調なビートの中に流れるようなストリングスの音が織り交ぜられた本作の曲調に見事にリンクしている。
край / xолм свободы (2005)
ロシアのプログレッシブロックバンドkrayの3rdアルバム。メンバー3人のうちフロントマンのVladimir Mironovが東京を訪れた際、自由が丘で見つけたこの建物の意匠にロシアフォルマリズムを感じたことから、この写真をカバーに採用した。初期krayは彼らが少年時代に聴いていたブリティッシュロックの影響を受けたサウンドが特徴的だったが、このアルバムではそれに加えロシアの伝統的な音を取り入れている。